法令用語の中では難解だけでなく一見簡単そうな用語でも、世間一般で使われている意味とはまったく異なる意味で使われるものがあります。
何も知らずに六法全書を読んでいると、まったく違った意味で理解をしてしまうわけです(^_^;)
その代表例なのが「悪意」と「善意」。
一見すると難しいという言葉ではなく通常の会話でも使われそうな言葉なだけに、その違いは知っておかないと大変です。
「悪意」と「善意」というと普通こうイメージしますよね
六法全書を開いていみると「悪意」・「善意」という用語をしばしば見ることができます。
六法全書では法律を勉強したことがない一般の人では、理解し難いおそろしいほど難しい言葉が特に昔は並んでいました。
例えば「欠缺」。
近年は民法などが現代語化され、「欠缺」とは、「不存在」や「ないこと」という意味で使われていました。
その点、「悪意」や「善意」は見た目はそれほど難しい言葉に感じないはずです。
日常でもよく使われる言葉ですから。
それぞれ、「悪意」は悪い意思。「善意」は良い意思という意味で皆さん使うはずですし、普通はそのようにイメージするはずです。
しかし、法令用語ではそんなイメージとは全く異なる意味となります。
法令用語の「悪意」と「善意」の意味は?
法令用語では「悪意」と「善意」は全く世間一般の意味とはまったく異なる意味になります。
まず「悪意」ですが、ある事実を知っていることを意味します。
逆に「善意」はある事実を知らないことを意味します。
どのように規定されているか、具体例でみていきましょう。
法令用語の善意をさらにわかりやすく説明
民法192条では、「取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。」と規定されています。
この規定は動産の即時取得の規定ですが、良い意思で占有を始めた人が、その動産を自分の物にできるというわけではなく、事実を知らないという意味です。
こんな感じのシチュエーションが想像するとわかりやすくなります。
AさんがBさんに旅行に行くからと頼まれて高価なスーツケースを貸しました。
Bさんはサラ金から借金をしておりお金に困っていたので、借りたスーツケースをAさんに無断で、事情を知らずBさんのスーツケースだと思って(つまり善意で)いて、そのように信じることに過失のないCさんに売ってしまいました。
この場合スーツケースは誰のものになるでしょうか?
誰がみてもBさんのものにはならないことはわかりますが、AさんとCさんどちらかでは悩みますよね?
法律では、善意無過失で取得したCさんが所有権を取得する、つまり自分の物にできると規定されているわけです。
法令用語の悪意をさらにわかりやすく説明
民法189条1項で、「善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。」
2項では、「善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。」
法律用語独特な言葉がてんこ盛りの条文です(笑)
善意つまり自分のその物に対する権利があると誤信して物を占有している人は、その物から生まれる「果実」を取得するということですね。
「果実」は果物の実ではありません。物から生じる収益のことをいいます。果実は少し説明が長くなるので、また改めて紹介をします。
2項は「みなす」が登場していますね。「みなす」と「推定する」の違いも重要なのでこちらを参照してください。
その物の権利に関する裁判で敗訴した時は、裁判の訴え時の時から「悪意」つまり自分にその物に対する権利がないことを知っていたとみなされます。
つまり、「みなす」ですから反証が許されないわけですね。
「悪意」と「善意」は一見すると難しい言葉ではないからこそ、法律初学者は注意が必要ですね。